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大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)123号 決定

原告

元村伊三男

被告

西淀川税務署長

被告

大阪国税局長

右当事者間の昭和四〇年(行ウ)第一二三号裁決取消請求事件について原告から文書提出命令の申立てがあつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立てを却下する。

手続費用は原告の負担とする。

理由

第一原告の申立て及び被告らの意見

原告の申立ては別紙一乃至三のとおりであり、これに対する被告らの意見は別紙四のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  大阪国税局商工庶業所得標準率表の提出を求める申立について

被告らは右文書を被告大阪国税局長が所持していることを争つているが、この点は原告主張のとおりとしても、原告は右文書により、大阪国税局作成の商工庶業所得標準率表によれば原告と同種営業種目における所得率が六二%であること及び所謂特別経費に属しない減価償却費の売上に対する割合が〇・七%であることを立証するべく右文書の提出を求めているところ、原告の同業者の所得率が六二%であることは当事者間に争いがなく、またかりに右の減価償却費の売上に対する割合が〇・七%であることが立証されたところでこれが訴訟の結果に影響があるとも思えず、その他右文書が本件係争年分の原告の所得がその主張のとおりの金額であることの証明に役立つかどうかも明らかでない本件においては原告のこの点の申立ては失当である。

二  所得調査書の提出を求める申立てについて

原告は民事訴訟法第三一二条第二号、第三号を根拠に右文書の提出を求めているが、原告が右文書の所持者(被告らのいずれであれ)に対しその引渡又は閲覧を求めうる法律上の根拠が明らかでなく(原告はこの点につき右文書が本件更正処分の理由となつた事実を証する文書であることを理由にこれにつき行政不服審査法第三三条第二項に基づき閲覧請求権を有するとするが、右の権利は審査手続上認められた権利にすぎず、右手続終了後においては原告はもはやこれを有しないというべきである。)また右文書は、課税庁たる被告税務署長が納税義務者である原告から昭和三八年分所得税について納税申告書の提出がない場合あるいはその提出はあつても当該申告が適正になされない場合に当該申告書にかかる課税標準等又は税額等を決定あるいは更正するに備えそのための資料に供する目的で同被告の命により原告につき調査(資料の蒐集)した担当の部下職員がその結果を上司である同被告に対し報告する手段として作成された文書で、本件のように現にこれに基づき原告の納税申告が過少であるとして更正がなされたような場合にはこれが納税義務者である原告に有利な内容を含むとは考えられないから民事訴訟法第三一二条第三号前段の「文書か挙証者の利益のために作成され」た場合に該当しないことは勿論、更に同号後段の予定する文書は挙証者と文書の所持者との間の法律関係に何らかの意味で関係ありと考えられる一切の文書を含むものではなく、文書の所持者が専ら自己使用のために作成した文書などはこれに当たらないものというべきところ、所得調査書の前記の性格からすればこれは課税庁たる行政庁において専ら前記使用目的に供するために作成した内部的資料にとどまるうえ法令上もその作成が義務づけられていない任意文書にすぎず、同号後段の予定する文書に当たるとして原告の立証に寄与すべきものとは解されないから原告のこの点の申立ても失当というほかはない。

よつて原告の本件申立ては理由がないからこれを却下することとして手続費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 松井賢徳 裁判官 仙波厚)

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